神鳥の卵 第9話


「ううう・・・ひどい、ひどいよルルーシュ」

僕、今も君の騎士として、君の意志を継いで頑張っているのに。
完全に凹んで俯いてしまったスザクの頭を、ルルーシュは小さな両手を懸命に伸ばし、一生懸命ワシャワシャと撫でていた。それでもスザクの機嫌は直らず、俯いたままどんよりとした空気を背負っていた。「スザクを悲しませてしまった!」と赤ん坊の脳はパニックを起こし、とうとうその大きな瞳にぷっくりと涙を溜めた。
こんなことで泣いてどうする。
スザクが泣くならともかく、傷つけた俺が泣く訳にはいかない。と、唇を噛み締め、体をふるふると震わせながら必至にスザクを撫で続けた。
C.C.はそんな様子を写真に取り、馬鹿な男だとスザクを蔑んだ眼で見つめた。
わしゃわしゃと触る小さな手に、落ち込む演技をしたスザクは、あー可愛い、ルルーシュ可愛いよ!と、癒やされまくっていたのだが、途中から何かがおかしいと感じ、伏せた状態でちらりと視線をルルーシュに向けた。
ぷるぷる震えて唇を噛み締めながら泣くのを我慢し、それでもスザクを必至に撫でる姿に、その姿も可愛い!と思うより先にこれは拙いと顔色を無くし、ガバリと顔を上げ、ルルーシュを力強く抱きしめた。

「ごめん、ごめんねルルーシュっっ!!」

僕が悪かったから泣かないで!!

「ふぇ!?・・・ふえぇぇぇぇ~~~」

急に抱きしめられたことでびっくりしたルルーシュは、今まで我慢していた感情が爆発し、火が点いたように泣き出した。子供の世話などしたこともないスザクは、どうしたらいいんだとあたふたした。

「ごめんっごめんルルーシュ泣かないで、ごめんね」

やり過ぎた。
完全にやり過ぎた。
赤ん坊のルルーシュが必至に慰めてくれるのが嬉しくて、調子に乗ってやり過ぎた。
まさか、泣くほど追い詰めてしまったとは思わなかった。
だって小さくてもルルーシュだし!
この程度で泣くと思わないし!
だが、実際に目の前でルルーシュは泣き続けていた。

「ふえぇぇぇふぇぇぇぇぇ」

大粒の涙をボロボロとこぼし、ルルーシュが泣き止む気配はない。
赤ん坊のルルーシュが泣いたのは初めてだった。
あのルルーシュが泣いた姿だって見たことはない。
まさか初めての泣き顔をこんな理由で見ることになるなんて!!

「ど、ど、ど、どうしようっ!?さ、咲世子さんっっ!!」

完全にパニック状態に陥ったスザクは涙目になりながら、奥で食事の準備をしていた咲世子に助けを求めた。

「って、待てお前。目の前に聖母と言っていいほどの慈愛に満ちた、母性の塊である美しい娘がいるというのに、どうして咲世子に頼るんだ!!」
「君には無理だ!」

何が聖母だ!母性だ!自分の世話もできないくせに!

「なんだと!?言ったな、返せ!」

子供の世話は完璧だ!

「嫌だ!!」

君には渡さない!!

「ふざけるな!!」

元々私のものだ!!

「ふえぇぇぇぇぇぇ!!」

ルルーシュの所有権をめぐり大声で怒鳴り合っていた二人は、その鳴き声でピタリと動きを止めた。スザクの腕に抱かれたままのルルーシュは、ふえぇぇぇ、ふえぇぇぇと顔を真赤にして益々大きな声で泣き出した。
これはきっと、二人が喧嘩をしたことが原因だろう。
喧嘩している場合じゃないと、二人は慌てた。

「ほらルルーシュ、たかいたかーい」
「ふぇ!?ふえぇぇぇぇ!!」

ルルーシュは泣き止むどころかいやいやと顔を振った。
子供の扱いを知らない男が乱暴に上下運動をさせたのだから、相当怖かったのだろう。泣いて赤くなっていた顔は、白を通り越して真っ青だ。

「いいから貸せ枢木!ルルーシュ、怖かったな?よしよし」

慌てたスザクがあやしてもC.C.がそれを奪いあやしても泣きやまない。
まずい。
非常に不味い。
赤ん坊だからそろそろ泣きつかれて寝るだろうが、寝る前に絶対笑わせたい。
ルルーシュが悲しんでいるのは駄目だ!!
と、意気込むのだが撃沈。
涙目の二人と泣き続けるルルーシュという惨状をしばらく傍観していた咲世子は、成すすべなくルルーシュをソファーに置き、力なくうなだれている二人を横目に、ヒョイッとルルーシュを抱き上げた。
そして、何やら手にしていたものをルルーシュの口元へ持って行った。

「ルルーシュ様、こちらを」

ぱくり。

「むぐもぐ!?」

大きな口を開けて泣いていたため、すんなりと入れられたものにルルーシュはびっくりして泣き止んだ。その隙に咲世子はテキパキとルルーシュの汚れた顔やら何やらを綺麗にしていく。もぐもぐと口を動かし「・・・これは何だ?」という目で三人を見たが、三人ともすっと目をそらした後、ゴソゴソと携帯電話を取り出した。
・・・これは間違いなく貴重なシーンだ。
おそらく・・・二度と見られないだろう。

「ルルーシュ、そのまま動くな」

真剣な表情で言うのはスザク。
おもわず低い声で言ってしまったのは仕方がない。それだけ真剣なのだから。
ルルーシュは思わずビクリとした。

「視線をこっちに向けろ、私の方にだ」

鋭い視線で見つめるのはC.C.。
命令口調なのも仕方がない。
二人の豹変に、ルルーシュは「何だ?何があったんだ?俺の口に何を入れたんだ!!」奇妙なものをいれられたに違いないと、ルルーシュは完全にパニック。自分で口元から外して見てみようと言うことさえ考えられなくなっていた。
ああ、涙目で混乱してる。
咲世子は無言のままパシャリ。そして速攻壁紙に。
少し落ち着いたルルーシュは、あの咲世子が自分に変なものを与えるはずがないと思い至り、「では、一体何なんだこれは。食べ物では無さそうだが?」と今度は頭に?を飛ばしている間に何枚もの写真を取られ、皆無言でポチポチ携帯をいじる姿にいい加減腹を立てた。
これはもしかしなくても馬鹿にされているんじゃないだろうか。そう思いどうにか自力で口から取り出したそれはおしゃぶり。
しかも可愛らしいピンク色。
フルフルと体を震わせ烈火のごとく怒る様子もしっかり記録された。

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